北海道の歴史と文化と自然

自然史

北国の生き物たちと、その舞台

日本でもっとも北に位置する北海道は、地形や気候などの自然環境が本州以南とは大きく違っています。厳しい寒さに耐えるため動植物はさまざまな工夫を重ね、北海道だけに見られる固有種も多く存在します。そして、その生き物たちが暮らす自然、地球の成り立ちを感じられる壮大なスケールの大地や海が、北海道の大きな魅力のひとつです。

北海道に生きる植物

歌才ブナ林

歌才ブナ林
温帯の標徴植物であるブナが北海道に上陸し、黒松内低地帯に到達した時期は、花粉分析によりおよそ680年前と考えられています(写真提供:黒松内町ブナセンター)

動植物の分布の境界線として、イギリスの動物学者が提唱した「ブラキストンライン」が有名です。これは津軽海峡が動植物分布の境界線となっているという説ですが、こと植物に限ってはあまり正確ではありません。ブナに代表される温帯性の植物などの分布は黒松内低地帯まで延びており、実際にはこの辺りが境界線といえるでしょう。この黒松内低地帯より北と東にかけては、徐々に温帯性植物が見られなくなり、ブナやミズナラなどの落葉広葉樹と亜寒帯性のトドマツやエゾマツが混じり合う「針広混交林」に移ってゆきます。
この針広混交林の幅広い分布が、北海道の植物景観の大きな特徴です。もっと北へ行くと、針葉樹林の比率が高くなってゆき、サハリンなどと似た景観が広がります。また、大雪山や阿寒には、原始の姿をとどめた原生林がうっそうと広がっており、これも北海道ならではのものといえるでしょう。

北海道は日本でいちばん北にある島だけに、本州では見られない花がたくさんあります。
高山植物では、夕張岳の「ユウバリコザクラ」、アポイ岳などの「アポイアズマギク」、大雪山の「チシマギキョウ」などが、その可憐な姿で有名です。「レブンアツモリソウ」「レブンウスユキソウ」は礼文島にのみ生息する野生のラン。「アッケシソウ」はほぼ道東の海岸だけで見られる花で、サンゴのように水面を真っ赤に彩ります。小清水町の原生花園では、短い夏の到来とともに、エゾスカシユリ、エゾキスゲ、ハマナスなど色とりどりの花がいっせいに咲き競うのが見もの。また、湿原には独特の植生があり、釧路湿原では「ユキワリコザクラ」「エゾイチゲ」「エゾオオサクラソウ」などが過酷な環境のなかで小さな花を咲かせます。

レブンアツモリソウ

レブンアツモリソウ

レブンウスユキソウ

レブンウスユキソウ

ブナ北限の里

黒松内町ブナセンター

ブナを中心に黒松内町の歴史や自然を紹介しています。自然観察の方法や動物・植物に関する情報のほか、木工房と陶工房、食工房などの体験スペースもあります。

北海道に生きる動物

オオワシ

オオワシ
羽を広げると、大きいもので2.5mにもなります。越冬のためカムチャッカ半島などから飛来します(写真提供:知床自然センター)

北海道と本州の動物の分布は、ブラキストンラインではっきり分かれています。
ヒグマ、シマリス、ナキウサギなどがいるのは北海道だけで、ツキノワグマ、イノシシ、ニホンザルなどは本州にしかいません。一般的に、エゾシカ、キタキツネなどに見られるように、本州の種より大型であるのが目立ちます。
ヒグマは体重200~300kg、長くて鋭い爪と牙を持ち、敏捷に動く、北海道で最強の動物です。キタキツネはその愛くるしい表情で人気がありますが、エキノコックス症との関連で敬遠されるようになりました。エゾシカは近年、頭数が急速に増え、農作物の被害が大きいことから、個体数管理が問題になっています。ナキウサギは氷河時代にシベリアから渡ってきて、そのまま高山に生き残っている珍しい動物です。
北海道には、タンチョウ、シマフクロウ、オジロワシ、クマゲラなど大型の鳥類が生息しています。タンチョウは冬が近づいてくると、子育てをしていた湿原を離れ、給餌場のある鶴居村などに移動して冬を越します。渡り鳥では、宮島沼に毎年多数のマガンが飛来し、ウトナイ湖やクッチャロ湖にはオオハクチョウやコハクチョウが飛来します。離島には海鳥の繁殖地が多く、絶滅の危機が瀕しているウミガラスは天売島に繁殖地があります。
北海道の淡水魚では、オショロコマ、イトウ、ヒメマスなどが北海道の固有種です。また、オホーツク沿岸から道東の太平洋岸に、トド、アザラシなどの海獣が回遊しているのも、北海道らしい光景です。

ヒグマ

ヒグマ
国内最大の陸上動物、日本では北海道だけに生息します。秋には、どんぐりやヤマブドウを食べる他、川に遡上したサケを捕獲して食べたりもします

タンチョウ

タンチョウ
釧路・根室地方を中心に、約1300羽が生息しているといわれます(写真提供:観光フォトデータ/北海道観光振興機構)

エゾナキウサギ

エゾナキウサギ
北見山地や大雪山系、夕張山地、日高山脈などの、主に800m以上の冷涼なガレ場に生息し、名前のとおり甲高い鳴き声でよく鳴きます(写真提供:白滝ジオパーク)

命がつらなる世界自然遺産、知床

知床半島

知床五湖
年間50万人前後の観光客が訪れる知床観光のメッカ。遊歩道や木道が整備されています(写真提供:知床自然センター)

2005年、知床が世界自然遺産に登録されました。海から陸へとつながる生態系がわかりやすく見られること、シマフクロウやシレトコスミレといった絶滅危惧種を含め希少な動植物の生息地となっていること、そしてこれらを保全していくための管理体制が整っていることが評価されたものです。
知床では、動植物が海洋~海岸線~高山まで多様な生態系を形成しており、それらすべてが原生的な状態で保全されています。流氷が育む、プランクトンが魚を養い、それがアザラシなどの海獣類やオオワシなどの鳥類の糧となります。そして、回遊してゆたかな海の恵みを蓄えたサケは川を遡上して、そこに生息するヒグマなどの動物を育みます。このように、知床ではすべての命がつながっています。

知床を楽しむ前に、立ち寄ろう

知床自然センター

道の駅ウトロ・シリエトクの隣にあり、知床の自然や国立公園を楽しむためのマナーを紹介しています。ヒグマやオオワシなどの実物大写真や、木に残ったヒグマの爪痕、鳥の痕跡を本物のように再現しています。


より深く、じっくりと知床に浸る

知床博物館

知床の自然をはじめ、地理・歴史・産業にわたる幅広い展示が行われています。多彩なテーマを設けたイベントや講演会、企画展も開催しています。

  • 所在地斜里郡斜里町本町49-2
  • 電話0152-23-1256
  • リンク知床博物館

知床・羅臼の見どころを知る

羅臼ビジターセンター

知床の自然、歴史、文化、利用に関する展示や映像、解説を通して知床国立公園を知り、自然を楽しむための情報提供を行っています。

地域が大きなミュージアム「ジオパーク」

洞爺湖有珠山ジオパーク

洞爺湖有珠山ジオパークには、火山や森、湖、海などの魅力を身近に感じられるフットパスが12コースあります(写真提供:洞爺湖有珠山ジオパーク)

〝ジオ〟は「地球」や「土地」を意味する言葉です。その公園ですから、ジオパークは地球科学的に見て重要な自然を含む公園ということになります。2004年にユネスコの支援により「世界ジオパークネットワーク」が設立され、貴重な地質、地形、火山などの遺産を有する自然公園を、世界各国で認定してきました。日本では6地域が認定されていますが、「洞爺湖有珠山」がそのひとつ。
また、これとは別に日本ジオパークもあり、北海道では「白滝」「三笠」「アポイ岳」「とかち鹿追」の4地域が認定されています。洞爺湖有珠山ジオパークには、火山活動で形成された雄大で美しい自然や貴重な地質、さらには、周辺の豊かな自然に育まれた縄文文化の遺跡群など、多くの見どころがあります。

北海道のジオパーク

テーマは「変動する大地との共生」

洞爺湖有珠山ジオパーク

洞爺カルデラ

洞爺カルデラ(写真提供:洞爺湖有珠山ジオパーク)

有珠山や昭和新山、洞爺カルデラなど多くの地質遺産や自然遺産に加え、北黄金貝塚、カムイチャシ史跡公園などの歴史遺産も数多くあり、温泉地としても人気です。フットパスが整備され、特徴ある自然環境を間近に見ることができます。


日本一の黒曜石産地

白滝ジオパーク

瞰望岩

瞰望岩(写真提供:白滝ジオパーク)

国内最大の黒曜石産地であり旧石器時代の遺跡が発掘された白滝地域をはじめ、丸瀬布・遠軽・生田原地域の4エリアに分かれ、それぞれ特徴のある地形や地質の成り立ちや自然、文化を紹介しています。遠軽町のシンボルでもある瞰望(がんぼう)岩は、海底火山の活動によってできました。


アンモナイトから炭鉱まで1億年を旅する

三笠ジオパーク

三笠トロッコ鉄道のトロッコ

三笠トロッコ鉄道のトロッコ(写真提供:三笠ジオパーク)

世界的にも有名なアンモナイトをはじめとする一億年前の生命の痕跡や、貴重な炭鉱遺産の数々、そこに根づく特有の文化を感じることができます。桂沢、幾春別・奔別、幌内、三笠、達布山の5つのエリアがあり、幌内エリアではかつて石炭を運んだ幌内鉄道の跡をトロッコに乗って楽しむことができます。


かんらん岩が形づくった山々

アポイ岳ジオパーク

ヒダカソウ

ヒダカソウ(写真提供:アポイ岳ジオパーク)

地球規模のダイナミックな変動によって地下深くから現れた「かんらん岩」がアポイ岳を形づくりました。その大地の変動とともに、特殊な土壌・気象・地理的環境が育むヒダカソウ、アポイマイマイなど固有の動植物たち、古くから交易の拠点として栄えた様似町の歴史や文化を丸ごと体感できます。


火山と凍れ(しばれ)が育む命

とかち鹿追ジオパーク

然別湖

然別湖(写真提供:とかち鹿追ジオパーク)

十勝平野の北西部、鹿追町全体がジオパークのエリアとなり、国内のジオパークで唯一「凍れ(凍結)」をテーマに、凍れが作り出した地形や生態系、寒冷地の生活の知恵や産業などを体験することができます。火砕流や火山灰が降り積もった大地では、おいしい野菜や牛乳が作られています。

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